糖尿病網膜症の治療は病気が進むほど難しくなり、失明に至る可能性が高いのはそのためです。

しかし、網膜症に有効な療法により失明から逃れ、その望みは繋げられる可能性はあります。

糖尿病網膜症

網膜症の治療の基本は血糖のコントロール

糖尿病網膜症の治療では、一度網膜症になると血糖コントロールで進行を抑えることは難しく、実際の効果を判定するのは難しいことから、止血薬や抗血小板凝縮薬、タンパク分解酵素薬、循環改善薬、脂質代謝改善薬、血管拡張薬、ビタミンB系の薬剤などの使用は補助的なものになりますが、重症になることを防ぐのは不可能ではありません。

なお、血糖のコントロールの仕方において自己判断は禁物で、その理由は、血糖値が極端に高い状態が続いた人の血糖値を急に低くしすぎると、網膜に浮腫が出るなど、かえって網膜症が悪化することがあるからです。



網膜症の治療を行う上で、初期の段階であれば第一に行うのは血糖のコントロールになり、糖尿病そのものの内科的な治療を中心に進めていくことになります。

ただし、やはりこの場合でも急に血糖値を低下させるのは問題ですが、その具体的な治療には次の3つあります。

1.食事療法
2.運動療法
3.インスリンや経口糖降下薬などの薬物療法

これらを、内科医の指示のもとに行っていくわけですが、特に網膜症の状態の悪い場合には、くれぐれも糖尿病の専門的な医療機関に見てもらうことをすすめます。

進行した網膜症に有効な療法

網膜症が前増殖網膜症まで進み、やがて増殖網膜症まで進行してしまうと失明に最も近い状態なため、内科的な治療に加えて積極的な眼科的治療が必要となります。

主力となるのが、レーザー光線による光凝固療法硝子体手術になります。

それぞれ解説します。

レーザー光凝固療法

光凝固療法は、網膜症の根本的な治療にはならないのですが、現在では一般的に広く行われており、進行を防ぐ効果が確認されています。

この治療法は、細い血管が詰まって血流不良になっている網膜を、レーザー光線を数百から数千回当てて焼きつけることで間引きし、眼球内の酸素不足を解消するという治療です。

その際、視力に関係のある中心部分を除いた網膜の範囲にレーザーを当てることになります。

この治療の目的は、新生血管が発生することを防ぐことにあるため、低下した視力の回復はできませんが、この治療を行うことで出血や白斑が消え、新生血管の発生や増殖をくい止めることが可能です。

治療のタイミングは、新生血管が現れ始めたころがよく、施術時間は15~30分ですむので入院しなくても外来でできるのですが、レーザー光線を数千回当てなければならないことから、治療は数回に分けて行われることになります。

硝子体手術

網膜症がさらにすすむと、眼球内に大出血がおきたり、増殖膜ができて網膜がはがれ始めるので、そのような場合には、硝子体手術で病変部を取り除きます。

硝子体手術は、局所麻酔もしくは全身麻酔で行い、特殊なカッターで濁った硝子体を切除し、類似した透明な液体に入れ替えます。

網膜剥離を起こしている場合には、増殖膜を特殊なハサミで切除して、はがれた網膜を元の位置に戻す手術を行います。

硝子体手術は、眼科の手術の中でも難しい手術の部類に入りますが、網膜剥離の改善には効果を発揮します。

網膜症の状況により、硝子体手術には1~3時間かかることがありますので、2週間ほどの入院が必要になります。

糖尿病網膜症の成功率

糖尿病網膜症の治療で行うレーザー治療や硝子体手術の成功率は70~80%とされていますが、その残りの20~30%のうちの10%、すなわち全体の2~3%は、糖尿病網膜症の治療を行っても残念ながら失明してしまうケースがあります。

こうならないためにも、糖尿病と診断された人は、病気を放置せず、定期的な眼科チェックを受けることが何よりも大切です。

最近、新生血管を誘導する因子VEGFの抗体が新生血管を抑えるのに有効であることがわかり、硝子体手術に使用され始めています。

またアバスティンという薬があり、日本ではまだ厚生労働省の認可が得られていませんが、糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症による網膜浮腫の治療効果も期待されます。

アバスチン(ベバシズマブ)は、血管の新生や成長を活性化する血管内皮増殖因子(VEGF)という物質に対する抗体で、VEGFの働きを抑制し異常な血管の増殖や成長を抑える作用があります。

VEGFは、眼内の新生血管が原因となっている加齢黄斑変性や糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、血管新生緑内障などの発症と関係があるようです。